数日前に書いたように、今日がお隣のサンタクロースさん宅にご招待の日。近所の花屋で花を買い、午前10時にお宅に伺う。家の玄関からたった5歩の距離。さて言葉も通じずどんなことになるのだろうか。一応話のタネに、妻の韓国語仲間がプレゼントしてくれた我が家のマンガ付きアルバムと、自分たちの撮った我が家の様子の簡単なアルバムを作って持っていく。あとは命綱の電子辞書。ベルを鳴らすと現れたのは先日と変わらぬご夫婦の満面の笑み。緊張気味のこちらの気持ちも和ませてくれる。迎え入れられるままに玄関をはいるとそこはこちらのイメージを裏切らないまさにまさにヨーロッパの老夫婦の部屋。本棚には古い本が並び、その上には鳥やワニの剥製、飾り棚には帆船の模型。壁にも船の絵や小さな油絵の風景画。聞けばバルビゾン派の画家の作品だそうだ。板に描かれたもちろん本物。別の棚には息子や孫たち、家族の写真が飾られている。雑多にものが置かれているようで、でも散らかっている感じはない。まるで絵本の中の世界。
約1時間ほどのひと時は、いつものように、日本語、英語、フランス語、韓国語入り混じった滅茶苦茶な会話で過ぎて行ったが、終わってみればあっという間の、とても温かなひと時だった。こちらにまだあまりフランス人の友達はいないのかと聞くご夫婦。今度は自分の息子、孫たちを紹介してくれるという。また、何か新しいつながりが生まれるのだろうか。
昼にはベトナム系フランス人のナムさんの招待でベトナム料理のレストランへ行く。ナムさんはVyさんのお兄さん。日本での我々のフランス語の先生の友人だ。日本でも食べたことのないベトナム料理、春巻きや餃子、フォーという米でできた麺料理。中華料理と比べ脂っこくはなく、日本人の味覚に合う。初めて食べるのに、同じアジアの食べ物だからかなんだか懐かしく感じる。ありがたかった。ナムさんのお宅はパリ郊外。どちらかというと新しく開発された場所のようだ。周囲にはいくつも湖が点在し静かで閑静な住宅街は日本でいえば軽井沢あたりの高級リゾート地のような趣。近くにある広大な公園には大きな湖のほとりの散策路のほかに、ゴルフ場、大きな乗馬クラブもある。見ると小学生低学年くらいの子供から高校生くらいの若者までがみごとに馬を乗りこなしている。公園の木々を見ていると、やはり日本とは印象が違う。明らかに緑の色が違うのだ。もちろん紅葉の季節だということはあるにしても、緑の色にかなりの幅がある。もみじのような赤い色はあまりないが、全体に緑が明るい。黄色みの強い緑、青味の強い緑、そして日本ではあまりない銀色がかった緑。コローの風景画の軽やかなグレートーンはこういうところから生まれてきたのかと何となく思わされる。ナムさんのお宅は住宅街のとても静かな一角にあった。入口をはいるとアロマの香りが漂う。フランス的なもの、アジア的なもの入り混じった、お隣のサンタクロースさんとはまた一味違った雰囲気。フランスという国は、こうした多様なものが共存するところ、それがここの活力を生んでいるのかもしれない。