ルーブル美術館のリシリュー翼側の入り口を入るとまず、建物の間の中庭スペースに出る。たいていの観光客は反対側のドゥノン翼側に入るので、ここはとても静かな空間だ。中庭から空を見上げるとそこには全面のガラス窓。上方から入る柔らかな光の下は大理石の彫刻が展示されるスペースとなっている。取り立てて有名な目玉作品があるわけではないのだが、大理石の白い像に当たる柔らかな光がとても美しく、なぜだかただぼーっとそこにいるだけでほっとできるちょっとしたお気に入りの場所だ。昨日はそこにスケッチブックを持って行ってみた。いまさら石膏デッサンみたいなことを…、受験生じゃあるまいし。と思うかもしれないが、そこに行くとなんとなく描きたいような気持になるのだから不思議だ。見ると今日はほかにも大勢の学生たちが、スケッチブック片手に座っている。のぞいてみると、どうやら建築科の学生のようで彫刻そのものというよりは取り巻く空間のほうを一生懸命描いている。そんな中に混じって約1時間半程度だろうか、鉛筆で描いてみた。展示室には監視員が数名いる。しかしよく見るとただの近所のおばさんたちといった感じ。特に片隅で静かにじっと座っている風ではなく、退屈そうにふらふらしている。そのうち仲間と世間話を始める。そんな後ろからまた別のおばさんがそっと近づきいきなり抱きつくと、抱きつかれたほうはびっくりするあまり大声を上げる。「あら、もうあんた、やめなさいってば。びっくりするじゃない!!」フランス語が分からなくともこのくらいは想像がつく。だからと言って仕事をさぼっているわけではない。突然、下のほうに向かって「シルブプレ ムッシュー!!(S’il vous plaît! monsieur!!)」と、鋭い声を飛ばす。そう、彫刻に触ろうとしている客を見つけたのだ。そんな騒ぎをBGMにしながら別に気負う必要もなく急ぐ必要もなく、ただ何も考えずに鉛筆を動かす。なんだかありもしないストレスがスーッとなくなるような気分だ。単なる彫刻のデッサンにこんなリラックス効果があるとは。
実は今回文化庁の同じ研修制度でパリに来ている人がもう一人いる。そのY氏にこちらに来て初めて会うことになっていた。Y氏はうちとは違い、パリのど真ん中に住んでいる。今日は彼のうちの最寄り駅で落ち合い、近くのCaféでしばらく過ごした。実はこのY氏、文化庁での最終的な面接会場でたまたま一緒になった人だった。ちょうど私の前が彼だった。面接の前は皆緊張もあって同じ待合室にいても会話もないのだが、先に面接が終わった彼が帰ってきたときに、思わず「どうでした?」と聞いたのが初めての会話。その答えは「結構突っ込まれましたねえ。」だった。その後、どうなったのかと気にはなっていたのだが、任命式で文化庁に出向いたとき、なんと隣の席に座ったのが彼だった。聞くと同じパリ行きだというではないか。全く縁と言うものは不思議なものである。今までまだ2度しか会ったことがないのに、同じようにここにきて同じような経験をしてきたという気持ちがあってだろう、なんだか他人の気がしない。帰り際、ちょっとお宅にも寄らせていただいた。さすがにパリの中心部、うちのあたりとは違う。周り中が「パリです。」と主張している。部屋はいわゆるワンルームの「ステュディオ」といわれるもの。大きくはないけれど夫婦で暮らすには十分だ。ちょうど先日のブログで書いた典型的な蜂の巣状の建物の内側にある。なので窓は2つあるのだが、いずれも外は見えない。中庭に面しているのだが、その中庭というのが2畳から3畳程度の広さ。なので中庭に面しているというよりは煙突の下にいるといったイメージ。とても不思議な空間だ。直射日光が入らないので暗いのだが、不快な感じがしない。何か、秘密の穴倉の中にいるような妙な落ち着きを感じる。オーナーのセンスがいいのか、置かれた家具も少しアジアンチックなものでとてもしゃれている。窓の外には本物かと思うような増加が飾られ、上からのうっすらとした光に生えている。日本では決して見ることのできないまさに異国にいるという雰囲気だった。ちょっとうらやましい。人のうちなので勝手に内部の画像を載せるわけにはいかないが、玄関部分と窓の外だけちょっと載せさせていただきます。今度、お互いの家を見せあいましょうとの約束を交わして家路に就いた。