3日目の仕事

今日は比較的地味な作業。首にかけた鎖状の装飾の形をとるのが主な仕事だった。自家製のシルバーホワイトの乾燥速度がそれほど速くなく、昨日塗った部分がまだ乾いていなかったこともある。鎖の部分については以前、斜光で撮った写真をのせたことがあるが、それを見てもわかるとおり明らかに意識的な盛り上げがなされている。描いた本人は(もちろんレンブラント自身)自分のリズムで一気にのせているので見ていて勢いがあるのだが、模写の場合、ある程度形をとっておかないと一発決めは難しい。なので今日はまずあたりをつけるつもりでむしろできるだけ薄塗りで形をとって行く。当然周りも同時に描くことになるので衣服の黒も入れながら。分析によると、同じころに描かれた肖像画の中で、黒い衣装はいきなり黒と若干のシルバーホワイトのみで描かれているものがあるようだ。実際ここにある他の自画像を見ても、絵の具層の薄い作品では下の茶系の下地の上に直に黒が置かれている様子が見て取れる。間に中間的な絵の具層はなさそうだ。黒を通して下の茶色が透けて見え、しかもその茶色は下地の白の明るさが生きた茶色。今模写している作品はそれと比べればもっとしっかり黒がのせられているのだが、それでもある部分、下地の温かさが生きている。実際に黒をのせてみて感じるのはやはり黒に厚みがあるということ。ただ黒くするだけではその厚みは出てこない。厚くのせれば完全に不透明に覆い尽くすことになり下の茶は生きない。どういうことか。ボディーのないフラットな黒では見るからにやせてスカスカに見える。ボディーがあってしかも透明、そのためにはメディウム量を増やすか、体質顔料を使うか。もうひとつは描かれた当時は実際かなり不透明だったか。油絵具は長い完全乾燥までの時間の中で透明度が増していく。それが目視判定でしか判断しようがなかった時代にはあたかも多量に樹脂が使われているように見られ樹脂絵の具で描かれたと誤解されてきたのだが、これがそういうことなのか。そのようなことをいろいろ考えながら実際少量の白亜を入れてみたり油の量を増やしたりしてみたところ、実物よりやや不透明感は強いものの、それなりに近いボディーとマチエールを持った感じは出てきた。が、実際のところの正解はまだはっきり分からない。黒の場合はまだいいものの、中間調子の色の部分についてはどう考えればいいのか。肌の影とか。色としては強くないのに厚みはある。そんな部分。それはそうとして、ついに今日から油壺からテレピンが消えた。油のみ。直に見ながら描いているうちにどうしてもそうなってしまう。たぶん図版から見て描いていたらこうはならなかったろう。実際やってみると、そうしないと実物の感じは出ないのだ。
仕事が終わって、11区に新しくオープンしたboesnerに画材を書いに行く途中、バスティーユの近くでマルシェが出ていた。前に来た時にも朝市で食べ物やら雑貨やら服やらの露店が並んでいたのだが、今日のはちょっと違っていた。露店で売られているのは絵画、写真、工芸品ばかり。日本では見られない光景だ。日本でもそこらでよく売られている安っぽい売り絵ばかりかと思いきや、意外とちゃんとしている作品があって侮れない。こんな感じです。

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