顔の彩色。レンブラントの同じ時期のある肖像画の分析結果によると、土製系顔料を含む、温かみのある下層描きの上にウエット イン ウエットでグレーズがなされているようだ。それほど何層も重ねているわけではなく、かなりいろんな色を画面上で混ぜ合わせているらしい。具体的に言うと、いくつかの土性系顔料、黒、黄色のレーキ、頬の赤味にはバーミリオン、明部から暗部への移行部分のハーフトーンにはわずかのアズライトそれらが鉛白と共に使い分けられているようだ。一応予定ではシルバーホワイト、バーミリオン、イエローオーカー、イングリッシュレッド、アイボリーブラック、そしてアズライトを使って一気に色を入れてしまうつもり。普段自分の作品では、暖色寒色が混じって濁ることを避けるため、暖色、寒色を交互に何層か重ねていくのだが、果たしてどうなるか。実際最初にイエローオーカーとバーミリオンでグレーズを始めてみると、どうも思った感じが出ない。離れてみてわかるのは、下層のトーンがまだ明るすぎるということ。何層もグレーズを重ねるのであればこの明るさからもって行ったほうがいいのだが、一発決めをするには下層の明るさをもう少し仕上がりに近づけておいたほうがいいのかもしれない。
このままだと暗くするために黒を多めに使うことになり、暖色系の色が濁り、また、グレーズ自体が厚くなるので透明な発色の美しさを損ねることになる。そこで、予定を変更、もう少しグレートーンで調子を深めることとした。要はグレーズを一発決めするのではなく、今日、少しグレー調で落としておいて乾いた上からもう一度色幅を与える2層構造のグレーズにするということ。すでに最初に入れたバーミリオンなどの色が残っているのである程度の色幅はあるものの、とにかく黒と白で作ったグレーでなでるように調子を入れていく。あらかじめ、顔の部分全体に薄く油を塗ってあるので調子をコントロールするのは難しくない。このグレーを入れてみて思ったのは、今回の場合、アズライトはほとんど必要なさそうだということ。明暗の移行部分の寒色は緑がかったブルーで、ちょうどアズライトを薄く塗ったように見えたのだが、実際グレーを置いてみると、下層の多少黄色みがかった色が透けて見える関係もあって、ちょうど原画の色と似た発色になるのだ。全体の調子を見ながら描き進めていくと、結局ある程度ハイライト部分にもグレーの色がかかってくる。それがかえってよかったようで、インパストの凹部分にグレーが入って明部に適度の抵抗感をもたらしてくれた。乾いた上からもう一度グレーズすれば、まあまあいい線行くかもしれない。いずれにしても、下層の絵の具の筆跡の状態がもう気持ち立っていたら…と、今になって気付くのだが、これは今さら仕方がないことだ。
…と、今書いたようなことは実際には本当に微妙な感覚的な部分なので、画像ではちょっとわかりそうにない。一応、今日の初めと終わりの状態を並べておく。ほとんど間違い探しみたいなことになっていると思う。
今日はお客も多かった。たぶん顔のグレーズが入ってくると、ずっと原画の感じに近づくのが画像とは違って実物でははっきり分かるということかもしれないが、明らかに見る人の反応が違っている。今日はついに「これは売るんですか?」と、オランダ人に聞かれる。写真撮ってもいいですか?はよく言われるが(ほとんどの人は勝手に撮って行く。)売るんですか?は初めて聞いた。小学生くらいの男の子に肩をたたかれ、一言「Bonjour!」と言われたこともある。レンブラントおたくのようなアメリカ人(たぶん)に話しかけられ、長いうんちくを聞かされそうになったことも。英語が通じないとわかると、諦めた彼は、お隣のKay君を捕まえて講義を始めていた。来る人も様々。今日一番驚いたのは、息子の学校の知り合い家族が見に来たこと。こちらの日本人教会でもあったことがある人で、ご主人がこのブログを見ていてくれたようだ。まだうちの家族も見に来ていないというのに。
この場を借りて、ありがとうございます。