昨日の予想通り、今日はまだほとんどの部分が加筆できるほどには乾いていなかった。なので作業も顔の部分のわずかな修正など、ほとんどやることなし。現場に行ってはみたものの、ほとんど仕事にならなかった。なので今日は画像もなし。ぼーっと絵を見る時間が長い。見ると、後ろのKay君もちょっとしたスランプのようで、他の絵を見たり、ベンチに座り込んだりしている。昨日あたりから、うまくいかないとよく言っていたが、暇なので様子を見に行ってみる。厚塗りの部分が全然原画みたいにならないんだという。原画はハイライトなど厚塗りで一気にスパッと決めているが、自分がやるとどうやってもその様にならない。いったいどうやってるんだ。と焦れているようだ。試しに絵の具を見せてもらった。見ると練りが足りないのか、明らかに絵の具がざらついている。確か、大豆レシチンを使ったエマルジョンで練ってあるんだと思うが、シルバーホワイトで練ってあるにもかかわらず、まるで粘りがない。可塑性はあるのだが、たとえて言えばカッテージチーズみたいな感じ。ぼそぼそしていて伸びがない。これじゃレンブラントにはならない。まだ市販のチタニウムホワイトの絵の具でやったほうがいいくらいだ。これで悩んでたのか。描き方にしてもどうしたらいいのかわからないようでアドバイスをくれという。かわいそうなので自分が作って使っているシルバーホワイトを見せてパレットの上で「たぶんこんな感じじゃないか?」と筆を動かしてみせると、「なんだ、簡単じゃないか。」と言う。うまくいかないのが自分の実力のせいだけじゃないとわかったようだ。こうしてみると、同じようにシルバーホワイトを使ってもまるで違った絵の具になるということは、いかにメディウムの違い、またその扱いが表現に違いをもたらすかがよくわかる。いい悪いではなく違い。その違いが絵の具を扱う側に影響を与えてその性質に適した表現が生まれていく。表現と技法材料との関係はそんなところにある。ところで結局彼にはサンシックンドリンシードを少し分けてあげることにした。さっそく明日これで練ってくるという。「あとは卵を持ってくればいいんだね。」自作の真っ黒になったというブラックオイルを1滴2滴加えればなんとかなるはずだが、しっかり練らないと絵の具にならないぞ。たぶん練るのが粘って大変なので、油入れ過ぎてどろどろのを持って来そうな気がする。とはいえ本当に好奇心旺盛と言うかやる気があるので教えてみるのも結構楽しい。…なんでパリまで来て絵画組成の授業みたいなことやってんだ?