妻の思い

午後、kay君の家にモデルが来るから描きに来ないかと言われ、行ってみることにした。昨日は夜中まで日本のニュースが気になってよく眠れなかった。原子力発電所の状態がいよいよ危なくなってきている。もし、放射性物質が大量に放出されるような事態に陥ったら、関東地方もただでは済まないだろう。そう思うと今まで遠くフランスにいながらまだ何か、実感のない、まるで夢の中の出来事のように見えていたものが突然リアルな現実のこととして迫ってくるのだ。ここ数日は一日中パソコンに映し出される日本の様子から離れることができなかった。このままでは何もできない。ただ何もしないままに無駄に時を過ごすだけだ。少しでも目をそこから離す必要があると感じたこともあって気が重い中行ってみることにしたのだ。
Kay君のアパルトマンにつくと、おなじみのMartin君と、土曜日にモンパルナスであったフォトグラファーのMindaugas氏がすでに来ていて遅い昼食を食べていた。しばらくお茶を飲みながらの会話。Mindaugas氏はどうやら描くわけではないようで食べ終わると部屋を出て行った。モデルが来るまでの間ゆっくりと支度を始める。アトリエは広さにしてたぶん20畳近くあると思うのだが、様々な物が雑多に置かれていて意外と狭い。そんな中、物をはじに寄せながらなんとか3人が座れる場所を作る。予定よりだいぶ遅れてモデルが到着。Kay君の言葉通りなかなか綺麗な人だ。イタリア人らしい。ズボンをはいたまま、上半身だけヌード。Martin君とKay君でポーズを考える。布を持ってきて体に巻いたりいろいろしてみるが、最後にどう思うと聞かれ、「布、いらないんじゃない?」と言ったらあっさり、じゃ、そうしようか。ということに。いつ始めるのかなと思いながらいると、Kay君はのんびり刷毛で紙に下塗りを始めている。横を見るとMartin君はすでになんとなく描き始めている。モデルさんは別にじっとしてるわけじゃなく2人と話しながら座っている。「もう、始まってるの?」と聞くと、どうやらそうらしい。いかにもフランスらしい、のんびりした描きだし。彼らはガッシュ、私は鉛筆、約1時間半くらい描いたか。
終った後は、先ほどのMindaugas氏も合流して近所のカフェで一杯。それぞれワインや、ビールやコーヒーなど飲みたいものを勝手に頼む。Mindaugas氏はリトアニア人。現在はロンドン在住。http://www.komskis.com/ この国に来るとほんとにいろんな国の人と出会うことになる。モデルはイタリア人。一緒にカフェで一杯やってるのはフランス人とリトアニア人と日本人。それでも別に違和感を感じないのが面白い。今日、モデルさんが帰り際、フランス式のあいさつ(ビズ)…ほっぺたでする挨拶をした。「こっちに来て初めてしたよ。」と言ったのを覚えていたMartin君が何やらメモ帳に書いている。なんだと聞くと、日本から来た小尾修が今日はじめてビズをした。と書いてあるという。そこにサインをしろという。歴史がここに記されたとかなんとか。何となく重たかった数日の気分が彼らの明るさのおかげで少し和らいだ短い時間だった。
帰ってみると、相変わらず日本の重い現実が待っている。原発の状態は壊滅的な状態の一歩手前で何とか踏みとどまってくれているようだが、(いや、周辺の人たちにとっては1歩手前どころではない。) 決して安心できるような状態ではなさそうだ。そして原発の騒ぎに一時隠れてしまっている地震、津波の被害者達の現状を考えると、心が痛い。韓国人の妻は、たぶん周りの日本人以上にこのことで心を痛めている。被災者の事を思って毎日のように涙を流している。彼女は韓国人。歴史的な背景にあって日本に対しては複雑な思いもあるはずだ。しかし同時に10年ほどになる日本での生活の中で、多くの友人にも恵まれ、歴史の教科書からとは違う日本人の姿にも触れてきた。今は両国をさらに離れたフランスにいる。今や彼女の中では国籍による区別をこえた感情が生まれているのだろう。彼女は今の気持ちを絵日記として書きとめた。祖国韓国の人たちに日本の事を自分の目と手でで伝えたいと願って。もし韓国語が読める人がいたら読んであげてほしいと思う。これが彼女自身の本当の気持ちです。(画面をクリックすると大きく見えます。)

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