もう1週間前の話になってしまった。パリに来て半年以上、やっとフランス以外の国に出た。目的は前にも書いたとおりナショナルギャラリー。ロンドンは全く初めてだ。ユーロスターで海底トンネルを抜けるとそこはもうイギリス。しかし同じような田園風景なので、初めは違いがわからない。そのうちにちらほら住宅が見えてくると確かにちょっと違う。何となくとんがっていて色が暗い。駅から外に出てまず目につくのが赤い2階建てバスと黒いタクシー。確かによく観光写真などで見るロンドンの姿。2階建てバスは観光用に一部だけ走っているものかと勝手にイメージしていたが、実際は一般的にどこでも走っているもので、あらゆるところで目にはいってくる。さて、何もわからないながら、パリではもうあまり不自由なく動くことができるようになったが、ここではまだ白紙状態。全く勝手がわからない。実はパリとは時差が1時間あるのだが、それを知ったのも翌日、市内を歩いていて息子がビックベンの時計の時刻が変だと気付いて初めて分かったような次第。
その時も、「なんだビックベン、ちゃんと夏時間に合わせてないじゃん。」などとビックベンのせいにしていたくらいだ。今回泊まったのは韓国人の民泊。家族4人部屋1泊100ポンド…(1万4000円くらい)で昼のお弁当を含め、3食が出る。外食するととにかく高くつくため、とても安上がりだと考え決めた。…イギリスは食べ物がまずいと聞いていたので無理に外食する必要もないか、と…。バスのチケットの買い方もバス停の場所も、右も左もわからないまま宿に電話して行き方を教えてもらうが、今一つ場所がよくわからない。仕方がないので通りがかりの男性に聞いてみる。英語ならフランス語よりはまだわかるはずなのに、なぜか無意識に出てくるのはOui!とかMerci!とか、ろくにできない変なフランス語ばかり。ひどい有様だ。にもかかわらず、男性はにこやかに、親切に教えてくれた。やはりフランスとなんとなく違う。物腰が柔らかいというか、上品というか…、別にフランス人が下品という訳ではないが、全体的にはもう少しぶっきらぼうなところがある。
なんとか無事に宿までたどり着く。迎えてくれたのはとても落ち着いた感じの夫人と、話し好きな旦那さん。それほど広くはない台所にいっぱいの丸テーブル。食事時には家族も含め、順番に食べて席が空いた所に次の人…。本当に一般家庭の中に泊まるという感じの宿。留学生が下宿代わりに長期滞在していた。ほとんど家族のように。とても温かな雰囲気だ。旦那さんが地図を見せながら、観光案内をしてくれる。バスの番号からバス停の場所、観光のコースまで事細かに教えてくれる。実に親切。その日は時間が夕方近かったので、バスに乗ってビッグベン、国会議事堂周辺を歩いてみる程度にすることにした。バスを降り、橋を渡ろうとすると、見たことのある風景。ちょうど夕方の逆光の中、太陽光の反射するまぶしい川面の向こうにシルエットで浮かぶ国会議事堂の姿はまさにモネの描いた「ロンドンの国会議事堂」。この場所にかつてモネが立っていたのかと思うと妙な感慨を覚えた。
ロンドンとパリの違い…。ここはパリと違い、何か雰囲気としてきっちりしている。これはフランス人とイギリス人の性格の違いがそのまま表れているようにも見える。建物は中心部の主な建物は別として、基本的に皆煉瓦造り、なので全体に色は暗めでどっしりとした印象。きっちり作り込まれた感じがある。パリは基本的に石造りで建物の正面はきれいに化粧が施されているが、側面は不揃いの石積みの様子がそのまま露出していたりする。もう少し明るくラフな感じ。ロンドンは基本的には町並みを大事にしているのだが、中心部でも古い建築物に混じって新しいビルがちらほら並んでいたりする。古い町並みを保存しようという意味ではパリのほうが徹底している。その意味ではパリのほうが1枚うわてだ。
ロンドンの道を歩いていて気付くのは、まず、ベビーカーの運転が楽だということ。パリのようにあちこちやりかけの工事跡ででこぼこになっているといった部分がない。そして犬のウンコ。道端でも公園の芝生でもほとんど落ちているのを見かけない。ヨーロッパはみなどこもウンコだらけかと思いかけていただけに新鮮に感じる。パリはトイレを探すのに苦労する。駅や公園などでもあまり公衆トイレを見かけないからだ。しかしここはある程度どこも整っていてしかも清潔なようだ。全体的にある程度日本に近い感じ。人々の様子も何か違う。パリよりもどこか行儀がいいとでもいうのか…、パリはもっと人目を気にせずやりたい放題な感じがあるようだが、ここはもう少し気を使った感じがある。人々のファッションもちょうど暖かい日が続いたからか、かなり薄着の人が目立ったが、女性など、淡い色の花柄を来ている人が目についた。パリはどちらかというともっと攻撃的というか、インパクトの強いものを着る。冬の間はみなほとんど真っ黒なものを着ていたが、暖かくなると、少しずつ色のあるものも目にするようになった。それでも淡い花柄のようなものはあまり見ない。白黒のコントラストに鮮やかな赤をぶつけたり、柄物は少ないように思うがあったとすれば大きめのコントラストの強い柄だったりする。若者からお年寄りまで相当におしゃれだ。もうひとつ、体形だが、パリはすらっとして足の長い人がまず目につく。ロンドンに着て最初に妻が気付いたのは、こちらでは男女とも、かなり太めの人が多いこと。観光の中心なので外国人観光客も多く、どこまでが地元ロンドンの人かはわからないが、それを言ったらパリも同じこと。太めの外国人ばかりがロンドンに来るとは考えにくい。これに関しては性格の違いかなんなのかはよく分からない。
このような違いはそのまま美術館にも表れていて、前にも書いたとおり、ナショナルギャラリーは規模ではルーブルに及ばないものの、展示の仕方から照明、作品の状態など、しっかりと作品が管理された印象が強い。対するルーブルは規模もさることながら、思わず人目を引くような巨大な作品など、コレクション自体もダイナミックだ、半面、一つ一つの作品はナショナルギャラリーほどにきっちりメンテナンスがされているようには見えず、会場の照明も、例えばデューラーの作品のような有名なものが、びっくりするくらい隅の暗い場所に置かれていたりする。電車でたった2時間半。似ているようでよく見るとずいぶん違いがあって興味深い。そう、ナショナルギャラリーは写真撮影が禁止。ルーブルはフラッシュさえたかなければ撮りたい放題なのだが…。残念。