ルーブルに行けない期間を利用してロンドンの続きを書こうか。子供達が美術館だけでは飽きてしまうので、午前中、ロンドン自然史博物館に連れていく。まるでファンタジー映画に出てくるような博物館。巨大な恐竜の化石がいくつもおかれていて、長男は大興奮、下の3歳の娘は動く実物大ティラノサウルスに半べそだった。広すぎて全ては見られなかったが、2階には膨大な石のコレクションが展示された部屋があり、子供には地味で面白くないかと思いきや、ものすごい興味を示したのは驚きだった。天気も非常によかったので、午後はバッキンガム宮殿近くのジェイムスパークで子供達がリスにえさをやることの夢中になっている間、一人でテート・ブリテンまで歩いて行ってきた。テート・ブリテンはイギリス美術の古いものから現代作家の作品に至るまで一同に展示されている美術館。特にターナーの作品の数が多く、美術館のある一角はすべてターナー作品で埋め尽くされている。
他にもラファエル前派の作家たちを始め、フランシスベーコン、ルシアンフロイドなど名だたる作家たちの作品が並んでいるのだが、例えば、エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」やウォーターハウスの「シャーロットの女」などの有名な作品も、それ1点ずつしか展示されておらず、何か唐突な印象は否めない。コレクション全体としてはナショナルギャラリーに比べ、少々散漫なものを感じた。
ターナーの作品も、その作品数の多さに対して質についてはそれほど代表作と言えるものは見当たらないものの、その劇的な光の表現、自由で勢いのある筆の動き、フラットな塗りと厚いインパストとの対比…。それらを間近に見られるのは貴重なことだ。
3泊4日のロンドン滞在、美術館も街も素晴らしかったが、実は最も印象深かったのは、宿泊先の民泊屋の家族だった。いつもひっきりなしに客が出入りするなか、プライベートも何もない不便さがあるだろうと思うのだが、夫婦ともに実に親切だった。3人いる子供達(いずれも10代後半から20代初めくらい。)も実に素直でしっかりとしている。気付くとうちの部屋まで入ってきて子供たちと遊んでくれていたりする。いかにも韓国的と言えば韓国的な暖かさと人懐こさ。夫婦ともに私達が行く前からうちの子供たちの名前を覚えてくれていて、旦那さんは知ってる日本語の単語を連発しながら言葉も通じないのにずっと子供達に話しかけてくれる。いろんな冗談を言って笑わそうとするのだが、意味がわからない子供たちはポカーンと口を開けたまま。夕食の後、「小尾さん達は明日帰ってしまうんだから」と、自分の息子に突然踊ってみろという。「ほら、この子、すごいうまいんだよ。あのMoon river(ムーンリバー)ってやつ。Micro Jackson(マイクロジャクソン)の。」…それはMichael Jackson(マイケルジャクソン)のMoon walk(ムーンウォーク)です…。恥ずかしがる息子に無理やりやらせようとするばかりか、しまいには自分が出てきてわけのわからない北朝鮮の軍人の歩き方まで披露し始める。奥さんもそんな旦那さんをにこにこ笑いながら見ている。家族がイギリスに渡って来てから20年に近くなるという。その間ここであったいろんな話を、ときには涙ぐみながら話す姿を見ながら、この家族が家族のきずなに支えられながら、この地であったであろうさまざまな苦労を乗り越え、今を感謝して生きている様を見せてもらったような気がする。この宿の魅力は家の設備ではない。家族の情のようなもの。何か懐かしいものを感じた数日間だった。