久しぶりに蚤の市に行ってみた。前回真冬の吹雪の中、家族でさんざんな目にあったヴァンヴ(Vanves)の蚤の市。今回は暖かい春の日差しの中、また、来ている客も多すぎず、少なすぎず、適度の賑わいを見せ、じっくり観ることができた。露店の中には売る気があるのかないのか、奥で何やらカードゲームに興じていたり、一角では骨董品みたいな老人が骨董品の楽器を奏でていたり、客と楽しげに話す人がいるかと思えば、気持ち良さそうにうたっている人もいる。
骨董屋のようなところで何か買う時には、ほとんど実用品しか買わない。だからうちのアトリエにはモチーフ棚がない。今日の目的は、オペラグラス。模写用にとりあえずオペラ座で買った簡単なオペラグラスを使っているが、せっかくだから蚤の市で面白そうなものがあれば買って使ってみようかと冷やかし半分見に行ったという訳。今のものでも洒落てしっかりしたものはかなりの値段になる。アンティークの良さそうなものなんていかにも高そうな気がする。だいたい蚤の市にあるかどうかもよくわからない。実際行ってあちこち見ていると、結構思ったより扱っている店はある。と言っても専門的にたくさん置いている店はなく、この店に1つ、あの店に2つ…、という具合。手にとってみると、かなり重いものが多く、状態が悪く実用性がないもの、など様々。模写をするのに首にかけていつでも使えるようにしたいので、あまり重いものでは都合が悪い。鍵のかかったガラスケースの中にあるものなど小さくて軽そうだが、いかにも値段も高そうに見える。実際値段が書いてあるものなど見ると、やはり190ユーロなんて読めたりする。いくつか見た中でまあまあ軽めで状態もよく、よさそうなものがあったので値段を聞いてみる。答えは80ユーロ。まあ、なんとかそのくらいならば…、と思ったが、もうひとつ、他の店で気になるものがあり、取りあえず保留にすることにした。別の店、実はガラスケースに入っていて、しかも値段が書いてなかったので少しビビっていたのだが、見せてくれと聞いてみることに。さっき見たものより小さくて軽い。黒光りする金属の持ち手には鹿狩りをする犬の浮き彫り。動かすと多少ガタつきはあるが状態はいいほうだ。いったいいくらだろう。尋ねてみると60ユーロという。決めてしまうかと思ったが、もうちょっとまけてもらえないかと思い、どう言ったらいいもんかと考えていると、向こうが痺れを切らしたのか、50ユーロでもいいよ。と言ってきた。商談成立。最大100ユーロ越えも覚悟していただけに、得した気分になる。そこで終わっとけばいいものを、どうにもさっき見たやつのことが気になりだす。今買ったやつには文句はないのだが、さっきのはさっきのでかなり魅力があった。確か、機能的にもちょっと大きい分倍率も高かったような気がする…。もう1個買っちまうか…。衝動買いの欲求がムクムクと…、これが蚤の市の魅力というか危なさというか…。結局さっきの店の前に立つ。確かめてみるが、確かに状態はこっちのほうがもっとよい。倍率も高いようだ。金色のボディーにもち手の部分だけ材質が…、貝かな?真珠色の輝きのある材質。白と銀色のストライプ。ちょっと派手かとも思うが、下品ではない。さんざん考えた揚句、店主に負けてくれないか。と聞いてみる。「いや、これはコンディションがパーフェクトなものだし負けられない。」という。「うーん…。じゃあ、70ユーロでは?」と、こちらから言うと、ちょっと考えた顔をして、「じゃあ、いいよ。」という。なんだそんならもうちょっと安く言っとけばよかったと少し後悔する。たぶん、どこの店も1,2割引きはするもんなのだろう…。まあ、状態はいいし、後でケースもつけてくれたのでいいとするか。
家に帰って子供達と公園に行く。パリ市内も見渡せる高台でさっそく使ってみる。子供でもいいものはわかるようだ。オペラ座で買ったものには目もくれず、一番高いやつの取り合いになる。買ったばかりの戦利品がいつ壊されるかとひやひやする。下の娘は帰って来てからもひもをつけて首から下げ、「たんけんだ、たんけんだ」と離そうとしない。どうかルーブルで使う前に壊されないように…。