ベルギー(その1)

ベルギーはパリから最も近い外国。そしてそこにはファン・アイクの手による「ゲントの祭壇画」がある。ずいぶん前から行こうと思い、模写仲間のKay君にちょっと一緒に行かないかい?と話を持ちかけていた。そしてKay君が安く行ける方法を見つけてみるといろいろ調べてみてくれた上で先週行くことになったのだ。彼の見つけた方法はEuro Lineという、バスで行く方法、そして、宿はブリュッセルにいる知り合いの家。というものだった。知り合いがどんな人かもよくわからないまま、おもしろそうだと行ってみることに。Euro Lineでパリからブリュッセルまで4時間弱、往復で49ユーロ程度(約5千円。)宿代がかからないということなのでこれは格安の旅だ。しかしどんな知り合いなのか。そんなことを考えながらの出発。乗ってから2時間程度を過ぎるとベルギー国内に入る。地続きなので国境で何かが劇的に変わるわけではないのだが、それでも風景に微妙な変化が感じられる。フランス国内にいるうちは何か風景が整然として見えた。風景のすべてに人の手が入っているような印象とでもいうのか。しかしベルギーに入るともう少し生やしっぱなしの木や林がそこここにみられるような気がする。もう少し自然が勝手にふるまっているとでもいうのだろうか。建物はイギリスと同じく煉瓦が基本のようで、色の印象はフランスよりずっと暗い。何となく北方のにおいが漂ってくるようだ。バスの中でKay君に聞いてみる。「泊めてくれる知り合いって絵描きなの?」どうやらそうらしい。友達だというので若い人かと思ったら、60代らしい。彼が子供のころからの知り合いだという。いったいどういう知り合いだろう。なんだか、お父さんの兄弟の奥さんの…と、複雑でよくわからないのだが、たどって行くとものすごい遠い親戚のような関係のようだ。血のつながりがあると言えるほどの関係じゃなさそうだが。ブリュッセルに大きなアトリエがあり、そこに泊まらせてくれるとか。なんだかそんなところに自分が上がり込んじゃっていいんだろうかと少々不安になりながらブリュッセルに到着する。着いた印象、「なんだか暗い。」たまたまそれまでパリが天気がよかったのに対し、急に気温も下がり、どんより曇り始めたのも原因の一つかもしれないが、何となく街の印象がどことなく重い感じがする。色使いのせいかもしれない。建物の暗い色、地下鉄の内部の色使いも何か暗い。パリから南方のアルルに向かった時とは対照的な印象だ。さてまずは目的の家に向かおうとするのだが、Kay君も勝手がよくわからないらしい。人に尋ねてみるのだが、ここにはフランス語を話す人々とフラマン語を話す人々がいるようで、話が通じない人もいるようだ。何となく同じヨーロッパで地続きだからなんでもわかっているような気がしていたが、考えてみれば彼にとってもここは外国なのだ。そう思うとなんだか楽しくなってきた。「フランスじゃあ俺一人だけ外国人だけど、ここじゃあ、君も外国人、ぼくも外国人だねえ。」わからないながら、なんとか無事地下鉄に乗って目的地にたどり着く。彼がここだと指さすところはまるで塔のように高くそそり立つビル。エレベーターに乗り込んで押したボタンは何と24階、最上階だった。出迎えてくれたのはがっしりとした体格の男性。一見怖そうだが笑った笑顔は優しい。さっそく中に通してくれる。中に入って驚く。まるで体育館のような広さ。ビルの最上階のワンフロア―すべてがアトリエなのだ。壁に沿って360度全てに窓があり、ブリュッセルの市内すべてが一望できる。唖然とする。アトリエそのものも独特だ。まるで何かの工場のよう。鉄骨とパネルでいくつかに仕切られた室内には、いたるところにあるドローイングや額に入った作品のほかに、様々な工作機械や、ペットボトルを切って作った容器に細かく区分された金属の部品。よく見ると、数えられないほどのコンピューターの部品が積み重なるように置かれている。

…その2に続く。

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