背景と、人物の前面の陰影部分へのグレーズ、パレット部分、他。
グレーズは前と同じようにスマルト+アイボリーブラック+若干の赤、黄色のレーキによる。背景の左側は一度目のグレーズのままでもよかったのだが、下層の色ムラが少し目立つため黒+若干のイエローオーカー+バーントアンバーを混ぜた緑がかったグレーをごく薄くかけて抑える。向かって左側はかなり黒に近い暗さなのでさらにグレーズを重ねる。背景の黒が強くなることで今までは全体としてバランスがとれていたものがいったん崩れる。今まではいいと思っていた顔の調子が弱く見えてくる。もう少し顔の影も強めたほうがよさそうだ。顔については、今日は黒+わずかの白で作ったグレーをごく薄くかけた。色味としての寒色を入れるためと、全体の調子の調整の他にマチエールの凹部に入り込ませることでテクスチャーを際立たせ、明部に抵抗感を与える目的も兼ねる。色としては今日のところは完成のイメージより若干寒色に転ばせておく。乾いた後にもう一度イングリッシュレッドで赤味を入れるつもりだ。パレットについてはまだ描き込みとしては途中段階。少々荒らした感じで終わる。
作業後はまた今日もレンブラント展を見に行く。これで4回目になる。年間パスポートがあるので何度入ってもただなのをいいことに、模写に来る度に通っている。なんて運のいいことだろう。全く自分のために企画されたような展覧会。レンブラントと弟子たちなど、その周辺画家達によって描かれた様々なキリスト像が展示されている。特別展は写真撮影が禁止されているのが残念だが、レンブラントの模写をする者にとっては絶好の展覧会と言っていい。つまりは私とKay君のための展覧会という訳だ。他美術館所蔵の色が綺麗に出ている作品は、ニス焼けで茶ばんだ作品を模写するにあたって大いに色の参考になる。おそらく1時間程度で一気に描かれ、その後乾燥したうえにグレーズを施したと思われる、オイルスケッチのようなキリストの頭部などを描いた小品達は、作画手順を知る手がかりとしてだけでなく、その生き生きしたブラシストロークを見るだけでも価値がある。技法的な面では、見れば見るほど自分の中での謎も深まるばかりだが、今後いろいろ試してみる材料にもなりそうだ。謎の部分については今、言葉で書き連ねるには時間がないが簡単に言えば見るからにオイルリッチな状態で描いているにもかかわらず、だらけて流れるわけではなく、むしろきりっとしていて とにかく非常に絵の具をよくコントロールしているということ。これは腕の問題だけではなくたぶん絵の具そのものの状態がそれに適した状態だったということだろう。
展覧会のメインはルーブルの持っている「エマオのキリスト」この作品は今回パリに来た時からずっと見当たらなかったもので、一体どこに行ってしまったのかと思っていたが、どうやら修復されていたらしい。他のルーブルにあるレンブラント作品と比べて明らかに色が違う。鮮やかだ。最初に一目見たときは今まで想像していた修復前の画像の印象が強かったため、違和感を覚えるほどだった。あまりにも画面が明るく鮮やかで、しかも影の中のあまり描かれていないと思っていた形までクリヤーに描き出されているので説明過多にさえ見えた。しかしじっくり見れば見るほどにまるで自分の前に新しく表れたかのようなこの作品はみるみる自分を魅了し始める。言葉にするにはこれまた時間がない。残念。もう1年後にここに来ていたら間違いなくこの作品を模写しただろうに。まあ、こいつの模写は、Kay君にお任せするしかなさそうだ。
画像はルーブルのサイトからのものだが、実物とは全く違うので気になる人はぜひルーブルへ。