たぶんこの作品は2日か3日で描かれている。1日で描き上げたくらいにも見えるがよく見ると、乾いた上からグレーズを施した層が見えるので”現場で1日。”という訳ではなさそうだ。空や、左手の斜面の描きなぐったような部分からは下地がやや温かみのある色で塗られていることが分かる。そのため、ほぼ1発決めで描かれた空も深みのある暖かい色を示している。その透けて見える色をもとに、あらかじめ薄い茶系のインプリマトゥーラを施しておいたキャンバスを準備、できれば2日、もしくは3日で仕上げようと考えた。今回はレンブラントの時のように技法的な部分にこだわるということはあまり考えていない。使う色も全て手持ちの絵の具セットにあるような色を使う。シルバーホワイトのみは手練りのものを使うつもり。メディウムはレンブラントの時のものをそのまま使っても構わないが、コローの時代にそのままのものが使われているとも思えないので、今回は可塑性と乾きの速さを考えブラックオイルにダンマルニスを加えたものを使うことにしてみた。
描き始めてすぐに感じたのは「何か違う」ということだった。絵の具自体、現代の絵の具が鮮やか過ぎるからか、色を出すにもかなり混色しなくてはならず、結果として透明感が失われてしまう。また、メディウムの選択も間違ったのか、どうも画面上でのコントロールが効かないようだ。実物を見るとウェット・イン。ウエットでどんどん描き進めているにもかかわらず、絵の具が変にぐずぐず混じり合わず、ピタッと張り付いている感じがある。マチエール自体も1つ1つのタッチに厚みがあるにもかかわらず、丸みがあって筆跡の筋のようなものがダイレクトに出ているわけではない。結局今日のところはいったん全体を描き切るつもりがそれどころではなく、透明感を失って色がぐずついた全く別物の絵になってしまった。結局最後に今日の仕事を全てふき取り少し黄色味が強すぎたように思える下地の色を調整するためにあらためてややグレーがかった不透明色を薄く全体にかけて下地のやり直しをすることになった。思わぬ誤算。あさってまでにまた調整し直さなくては。ところで下地は乾くだろうか…。
帰りがけに前から何だろうと気になっていた、バスティーユで開かれている外から見るとどうやら骨董市らしい会場に入ってみた。運河の周りのスペースにテントのようなものが並んでいるのだが、囲いがあって中の様子がよくわからない。入口らしきものがあるので入ってみると、係が出てきて入場券を見せろという。「しまった。有料か…。」入場券売り場を教えてもらうと入り口わきにあった。8ユーロ。…900円くらいか…。結構とるなあと思っていたところ、知らないおばさんが、持っていた券をくれた。訳もわからないままありがたく頂いて係に渡すと「ラッキーだったね。」とでもいうような笑顔で入れてくれる。中に入ると会場は思った以上に広く、室内展示場のほかに、運河沿いに屋外のテントの売り場まであって1時間じゃ回りきれないほどだった。結局特別買いたいようなものには出会わなかったが、時間の過ごし方としてはなかなか悪くなかった。ただで入れたし。