実は昨日パソコンの調子がおかしくなり、今日午前中格闘の末、どうにか元に戻すことができた。聞くところによるとフランスでパソコンを修理に出すと、いじり壊した揚句、料金だけはしっかり取られるなんてことがよくあるらしい…。こんな場所に来てパソコンの故障なんて恐ろしい。なんとかせめて帰国するまで壊れないでもっていただきたいものだ。
昨日でとにかくコローにけりをつけることにした。思った以上に、もしかしたら一番苦労する羽目になったが、とにかく昨日終えると決めた。一見見た目にはできているように見えるからか、昨日は見物人がやけに多かった。人垣ができるとちょっと下がって見たくても気軽に下がれない。なんだかよくはわからないがひたすらこちらの写真をとる女性がいて、たぶん10分近く後ろから、横から、前から、時には目の前1メートル以内の距離からこちらの動きに合わせてシャッターチャンスを狙っているのがわかるほど。それを撮ってどうしたいのかわからない。そこまで凝って撮るのなら後でその写真をくれるなりすればいいのだが、結局話しかけることもなくいつの間にかいなくなっていた。最近美術館の中に限らず、やたらと中国人の観光客が多いような気がする。そんな中国人の見学者のタイプを3つほど。
タイプ1…「あなたの作品の前で一緒に写真に写ってくれませんか。」という人。
タイプ2…「あなたの作品の前で写真を撮りたいのですが、撮ってくれませんか ?」と、こちらに撮影させる人。
タイプ3…「あなたの絵の前で写真をとらせてください。」と言いながらこちらの使っている筆を取り上げ絵を描くポーズをとってはたがいに写真を撮り合い、大盛り上がりの親子。
さすがは中国人。遠慮がない。
とにもかくにも作業を終える。考えてみればこれが今回、ルーブルでの最後の仕事となる。考えてみれば実際に模写を始めてから約4ヶ月半の出来事。困難だった申請期間を含めても6カ月にしかならない短い期間での出来事だ。その間に描いた模写3枚。いろんな意味で密度の濃い半年間の出来事だった。他の人達に言うと4カ月に3枚というのはあり得ないことだという。これは何よりもこの間協力してくれた数多くの恩人たちのおかげであることは言うまでもない。加えて言うとすれば、フランスのおかげ…。初めは手続きの問題で担当者に会う、ただそれだけのために1ヵ月半を無駄に費やしてしまい、一体この国はどうなっているんだと思うほどだったが、結果的に見ると、言葉も通じない、いわば飛び込みの外国人に対してここまで協力が得られるなどということはたぶん規則優先の日本ではありえないことだろう。諦めず、情熱を持って働きかける者に、ときには驚くほどの融通と対応を示してくれるのがこの国のやり方ではないか。今はそんな国、フランスに感謝の気持ちを示したい。
昨日は帰り道、しばらくぶりにもう一人の文化庁研修員横井山氏と待ち合わせてしばらく彼のアトリエを訪問した。なんと私のムサビ時代の先輩、Sさんのパリでのアトリエを借りて描いているという。世の中狭いものだとつくづく思う。彼もこの1年間様々な人と出会い、また別のフランスを経験してきた。横井山氏のブログはこちらから。
http://www.yokoiyama.com/
アトリエにはかなりの数の作品が並べられていた。これまで背景はみな色面だったが、こちらに来て背景にも具体的なものを描き込むようになったという。丸い大きな青い顔の人物の背景にはアトリエから見えるパリの風景。ここで描くからこそのリアリティ―。とても魅力的な作品だった。さて自分はというとこの1年、勉強のつもりで来て、ほんとに勉強してしまった。学生のように人体のクロッキーやらスケッチ、美術館での模写、家での実験の数々…。自分の作品らしいものはほとんどできていない。全てはここでこそできる貴重な時間だったが、一方で帰国後の事を考えると、夏休み、めいいっぱい宿題をため込んだ小学生の心境。帰国と同時に金銭的にも仕事の上でも一気に現実が押し寄せてくる。ちょっと考えただけでも恐ろしい…。