実は先週1週間ほど、我が家にスイスからのお客さんがホームステイしていた。名前はAlice。ちょうど1年前知り合いのスイス人の招待でスイスを訪れた際、数日間自宅のゲストハウスに我々を迎え入れてくれた家族の娘さん。
去年会った時から日本に来るという話は聞いていて、来たときはぜひ我が家にも寄っていくよう話していたのだが、まさにそれが実現したのだ。彼女は高校を卒業し、大学に入る前、1年間休学しアルバイトでお金を貯めて日本に来たという。実は日本に来る前、すでに3か月間のインド旅行を終えている。今回日本には4月半ばに大阪に到着し、京都、奈良、広島、白川郷、上高地や長野の温泉町をめぐり、河口湖や静岡、箱根で富士山を眺めるなど、じっくり日本のあらゆるところを楽しみながらついに最終目的の東京に着いたというわけだ。最初がうちならまだしも、日本のいいところを一通り見た後にたどり着いたのが我が家というのはまことにやりづらい。相手が日本人ならまだ庭が広くてゆったりとした我が家は何となくほっとできるような良さもあるとは思うのだが、彼女はスイスの広々とした眺めの中で暮らしている。言ってみれば庭も周囲の眺めも数段”格上”の日常生活、ちょっと太刀打ちできない。それでもまあ、彼女にとっては充分外国だからそれなりかな。…と、とりあえず思うことにした。
ちなみに我々がスイスに行ったのがちょうど1年前の6月。まさに同じ季節だ。ちょっと面白いので彼女のうちの庭と日本の我が家の庭の様子でも比べてみようか。同じ季節、スイスと日本の自然がどんな風に違うのかがよくわかると思う。まず、緑の色の違い。スイスの緑はほかのヨーロッパと同じように日本のそれに比べ、色が明るい。紅葉の季節でもないのに黄色がかった葉の色もある。我が家の方は新緑の季節を過ぎ、すでに緑の色が一様に濃くなっている。葉のつき方を見ても日本の我が家がうっそうと隙間ない緑であるのに対し、スイスの方はいかにもすっきりしている。写真ではわからない部分だが、スイスに行ったときにはこの庭の芝生の上で鈴なりのチェリーをどんぶりいっぱい採ってごろごろ寝ころびながら「まるで俺たち、害虫みたいだな。」とか何とか言いながら食べていたものだが同じようなことをうちの庭でやろうとしたら大量の蚊の襲来、アリの行列、トカゲの行き来…とにかく生き物があふれすぎていてとても芝生でリラックスしながらのんびり自分たちが”害虫”をやってられる状態じゃない。同じ6月でもずいぶん違いがある。
話はそれたが当のAliceさん、なかなか好奇心にあふれた人懐っこい子だった。サザエさんちのような大家族の我が家にも物怖じすることもなくすんなり溶け込み、気付くと風呂あがりに子供たちとお笑い番組を見て笑っていたりする。スイス育ちだからだろうか、のんびりしていておおらかなのでこちらも気が楽だった。彼女はカメラが趣味、なかなかいいカメラを持っていて、旅先で様々な風景を撮っている。結構いいセンスの持ち主だ。彼女を川越に連れて行ってあげた時のこと。なんでもないところで突然「ちょっと待って!」と立ち止まる。カバンからカメラを取り出すのでいったい何を撮ろうとしているのかとこちらもあたりを見回すが、おもむろに彼女がカメラを向けたのは足元のマンホールだった。彼女が日本に来て最初に気付いたのがこのマンホールだったらしい。今まで気にしてもいなかったがよくよく見ると、その土地土地のマンホールがあるようで、例えば川越だったら「時の鐘」のデザインだったりする。意外と色もカラフルで言われてみれば面白い。家に帰ってからこれまで集めた彼女の”マンホールコレクション”を見せてもらったが、お見事だった。しかもそのマンホールを見ただけですべて地名がすらすらと出てくるから驚いた。こんな日本の楽しみ方もあるんだなあ。
彼女が日本に興味を持ったきっかけはどちらかの親だったかが日本人の友人からだったらしい。それをきっかけに日本の漫画やアニメーションに興味を持ち、さらに日本のドラマやらなんやら…、興味の幅が広まっていったようだ。日本語もちょっとだけわかるが、彼女が最初に覚えたのは日本のドラマやコマーシャルのせりふだったという。「俺は、俺は、ホモじゃなーい!」「あなたも私もポッキー!」などなど…。池袋の西口公園に行きたいというので「どこじゃそれは。」と探してみるが、公園らしいところなどない。よくよく探してみると、そこは単なる駅前広場みたいなところだった。いったいなんでと聞くと、好きなドラマの撮影場所らしい。ほかにも恵比寿ガーデンプレイスやどこだか知らないところも彼女にとっての”聖地”らしい。その辺は韓国ドラマにはまった日本人マダム達と本質的には変わらないみたいだ。東京に来てこれまで他に行ったところと言えば、上野公園、東京国立博物館、アメ横、渋谷。原宿でコスプレを見、お台場で実物大のガンダムを見た。今日は皇居、国会議事堂、早稲田大学あたりを見たらしい。もう数週間でスイスに帰国のようだが、まだまだ彼女の探究心は満たされていないようだ。
…つづく(たぶん)