Drawn by the Brush: Oil Sketches by Peter Paul Rubens
ルーベンスが自作のエスキースのために残した数多くのオイルスケッチが掲載された画集。実際、ルーブル美術館にもルーベンスの手になるかなり多くのオイルスケッチがある。渡仏前からそれらはずっと気にかかっていたものだったが、現地でレンブラントの模写をしている期間に、たまたまレンブラントの特別展”Rembrandt et la figure du Christ“がナポレオンホールで開かれることになった。
Rembrandt et la figure du Christ
Rembrandt and the face of Jesus
その会場で見た数多くの習作と思えるオイルスケッチを見て、画家の生き生きとした筆の動きや息遣いがダイレクトに伝わるような表現にルーベンスとの共通点を感じ、模写を通して感じていたメディウムに関する疑問点と、自分なりに試行錯誤を通してたどり着いた一つの答えを試すためのうってつけの手法としてフランス滞在時からいくつかの試作を始めたのがオイルスケッチを試し始めるきっかけとなった。http://www.osamu-obi.com/blog/2011/05/post-99.html http://www.osamu-obi.com/blog/2011/05/post-100.html http://www.osamu-obi.com/blog/2011/06/post-109.html http://www.osamu-obi.com/blog/2011/06/3.html http://www.osamu-obi.com/blog/2011/07/post-114.html
実際そのメディウムを使ってみると、短時間で描くのに非常に都合がよく、これまでにない描き味が新鮮に思えた。以来、今までとは違うもう一つの表現方法とならないかと模索しながらいくつか作品化を試みている。
この方法で以前と大きな違いがあるとすれば、それは地色の積極的な利用だ。渡仏前の作品では、このホームページの”Process“のところを見ればわかるとおり、下層描きでは明部から暗部まで、一通り不透明な絵の具での描き込みをしていた。それに対しこの方法を使い始めてからは、最初に施す褐色のインプリマトゥーラを意識的に生かすようになっている。特に暗部については不透明なグレーを挟むことなく、主に白を含まないバンダイクブラウンを使うことで下層の透明感をそのまま利用するようになっている。そのことにより暗部に関しては説明的な描き込み自体は困難になったが、その代わりに絵の具の透明感が増すことで、より、空間の奥行きに対する意識が増した。最近描いた2枚のオイルスケッチはそれぞれ1日で描いたもの。乾燥を待ってグレーズをかけ、仕上げるつもりの作品だ。まだ下層描きの状態だが、以前との描き方の違いがはっきり出ていると思う。暗部のグレーズにたっぷりとした厚みが生まれたのも以前の技法との違い。明部のシルバーホワイトの厚塗りとは別に、頭髪や目の中の輪郭に沿った強い影の部分にもレリーフ状の盛り上がりが生じている。以前の下層描きがどうしても描き割り的な硬さを拭えなかったのに対し、この方法では地色を基調としているために全体を統一した意識で描き進めることができるうえ、この段階から透明と不透明、暖色と寒色という色幅を持って進めることになるので、下層描きから彩色層にかけての移行がスムーズになる。一言で言って無理がない。これはグリザイユから彩色へという技法をとり始めたころに感じていたこと、「古典絵画を見ると原理的にはこんな方法を踏まえているとはいえ、実際にここまで堅い描き方をしているものは少ないだろう。でも、まずは一度こういう方法を厳密に行って原理的な効果を自分のものにし、それができたならその後は自然にもっと自由に崩していけるんじゃないか。」…それに対する自分の中での一つの答えになるのではないかと思う。
今のところまだこのオイルスケッチはせいぜい6号か8号程度の小品で人物の頭部を描く程度にとどまっているが、いずれ、もう少し大きなものにつなげていきたいとも思っている。それが一方で今までのように時間をかけて描きこむ作品との間でうまいこと反応し合って、描く上で双方の間が活性化すれば面白いんじゃないか。…そんなことをちょっと考えているところ。とにかく楽しくやっていきたいものだ。