確かに木の床が好きで、昔からよく描いている。いわゆる最近一般に使われているフローリング材はベニヤ板に化粧板を張り付けたものか、プリント合板か…そんなものかと思うが、自分が好きなのは無垢材の床板。1枚1枚はめ込みながら施工するやつ。だから我が家の床は、アウトレットで安く買った床材を張ってもらったりして、リンシードオイルと油絵具で塗装した床、柿渋塗りにした床、ほとんど無塗装のままの床、など、場所場所で実験しながらいろんな床を使い分けている。
新建材は確かに施工は楽だし狂いも少なく仕上げはきれいなのかもしれないが、何か味がないとでも言うのか…、とにかく出来上がった時が一番きれいで、あとは時間がたつほど劣化するだけ、ただ汚れていくしかないといったイメージ。それに対して無垢の木材やしっくい壁、などの自然素材と言えばいいのか正確な言い方はわからないが、昔から使われてきた素材は、時と共に反りが生じたり痩せて来たり、もちろん汚れもつくのだが、それらが味わいとしてプラスに作用していくように感じる。使いながら古びるさまを楽しむのが好きだ。
そんなわけで、うちには横浜にいたころずっと通っていた教会が建て直すことになった時、頼んで電ノコで切り取らせてもらった思い出の床板が今もアトリエに置かれている。現在のアトリエの床はほぼ無塗装の無垢材だが、50年以上使いこまれた教会の床にはまだ存在感で勝てそうにない。
パリに行ってからこれまで、しばらくこの床は描いていなかったが、久しぶりに今回また描くことになった。さて、どうやって描くかと言えば、それほど特別な秘密があるわけではない。なので秘密にする気もない。簡単に言えば最初に厚塗りで木目の質感を出し、乾いた上から明るめの色をナイフでしごきながら木の質感を作り、筆で描き込んでいく。さらに乾いた上に透明から半透明のグレーズを重ねて空間にきっちりおさめていく。という3工程ということになるだろうか。それ以上は言葉で表現しようがない。あとはメディウムの乾き具合とか、絵具の量、筆の運び、といった感覚的なことになるので説明しようにも無理。参考までに第1段階の厚塗りでの木目表現のわかる今日の画面の画像でも。
以前、島村信之氏に「床を描かせたら日本一」と言わせた床職人のお仕事でございます。