車掌さん

  先週土曜日が運動会だった息子は今日が代休。私も今日は大学の授業が休みだったこともあり、妻と3人で渋谷の”アントニオ・ロペス展に行くことにした。私はこれが2回目。もともとは妻と二人で行くつもりだったが、息子も5年生くらいにもなれば本物の作家の作品を見せても無駄にはならない年齢になったのかなあと思ったわけだ。ルーブルに連れて行った時を考えると、久しぶりの美術館。行く道の電車の中で予備知識を与えておこうかとパンフレットの写真を見せ、「この人はすげえ人なんだぞ。世界的な巨匠だよ。今の日本の写実絵画をやってる人達はみんなこの人の影響を受けてるんだ。別に全部細かく描いてるわけじゃないけどものすごいリアルだろ?で、ずっしり重いんだ。ルーブルにある絵とは感じがずいぶん違うけど、すげえぞー。夏の朝の風景を描こうと思ったらほんとに夏の朝しか描かないから時期が過ぎたらまた来年、それでだめならまた来年、なんてやりながら10年でも20年でも描きつづけるんだ。だから作品は終わらないからほとんど売らずに自分で持ってる。いったいどうやってお金稼いでるのかねえ…。」渋谷で降りて以前東急のカルチャーセンター「東急BE」が渋谷にあったころ、よく夕食を食べに行ったセルフサービスのうまい讃岐うどんの店で昼食をとり、いざ展覧会へ。前回友達と行った時はついしゃべりながら近くで観すぎて監視員に注意されたので、今回はちょっと周囲に気を使いながらゆっくり楽しんだ。絵の一部に写真がコラージュされていたり、画面の端に鉛筆で割り算の計算が書かれていたりするのを見つけるのは一種のゲーム感覚で面白いようだ。しかし子供の視点から見ても伝わってくるものはあるらしい。img120.jpg犬の死骸を描いた作品の前で息子が言った言葉は、「すごい絵の具のでこぼこ…。」単なる平面の上の説明描きだけではない、物質としての絵具の力はダイレクトに見るものに伝わるのだろう。これは画集からでは読み取ることができない部分だ。妻は妻で単調な日常生活からちょっと離れて久しぶりにゆっくり絵を観ることができて喜んでいた。「ルーブル美術館で見た絵よりよかった。」…というのが彼女の感想。

美術館を出て、スターバックスで一休みしながら息子が言う。「あれ、車掌さんが描いたの?」「ん???何のこと???」「だってお父さんが言ってたじゃん?」「俺が?車掌さんなんて言った覚えはないぞ?」「えー?」

何のことやら話がさっぱり分からない。いろいろ話をほじくり返してやっとわかった真相は、「車掌じゃなくてそりゃ巨匠だ!」…ということでした。それを聞いてやっとわかったとほっとした顔で言った息子のせりふは、「ああ、そうか。巨匠さんの絵なんだ。」

ああ…、息子が芸術を理解できるようになる日は、まだまだ遠い。

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