よく学生に「パレット上で色を考えるんじゃなくて画面上で考えろ」なんてことを言ったりする。それは色は常に隣り合った色、下層の色との関係の中で見えてくるものだからなのだが、特に油絵に於いては、他の絵の具、例えば日本画や水彩などと比べても絵具自体の透明性が高いため、例えば白いパレットの上での発色と暗い画面上の発色ではまるで違ってくる。そんな油彩の特性を除いて考えても、その色が置かれる部分がどんな色のトーンの上なのか、そこが空間のどんな部分に位置しているのかによって同じ色でも全く違って見えてくる。それをきちんと空間に収めながら色をコントロールするためには実際に画面に色を置きながら、画面上で調整していかなければならない。例えばやや暗めの褐色の画面上に中間程度の明るさの控えめな青味がかった色が欲しいとする。その場合、
1)青と白、そして彩度を抑える反対色を混ぜてちょうど求める明るさ、彩度の絵の具にし、厚く不透明に塗る。
2)青のみを透明に薄く塗る。
3)青にわずかな白を混ぜて半透明に色を重ねる。
それらによって同じ青でも全く違った表情を持つことになる。1)の場合は色面として強くなるために手前に出てくる印象が強くなる一方、混色による濁りが出やすく、平板な色になりやすい。2)の場合、下層と重層的に色が見えてくるために色に深みが与えられ、奥まった空間の中での青を感じさせられる一方、色面としてのはりは出しにくい。3)の場合はそれらをつなぐ役割を果たす。
描くときにはそれら絵具の明度、彩度、透明性、塗りの厚さを感覚的にコントロールしながらどうにか空間に収めていこうとするわけだが、なかなか簡単にはいかない。
画像は先日描いたソファーにかかった布の制作途中のもの。赤、青、黄色が編み込まれた模様のある布が画面の奥まった影の中にある。ところでこの赤、青、黄色を表現するのに使った色はいわゆる絵の具の赤、青、黄色ではなかった。下層は褐色のインプリマトゥーラの上にヴァンダイクブラウンで粗描き。その上に赤はバーントシェンナを薄くのばし、青は単純に黒にわずかな白を混ぜたグレー、黄色はイエローオーカー、とシルバーホワイト、それにわずかなバーントアンバー、彩度を落とすためにかなりのヴァンダイクブラウンを混色したものだが、実際には下層の色をかなりの部分で利用した。パレット上でそれを観ると、とても赤、青、黄色には見えないが、それが画面上ではちょっと鮮やか過ぎる赤、青、黄色に見えてしまう。もちろんこれは暗部に位置する影の中の色だからこそそう感じるのであって、これが明部にあったら色としてはきちんと見えてこないだろう。
画像でどこまで実感できるかはわからないが参考までにパレットの写真もどうぞ。