画集の編集作業もいよいよ最終段階を迎えようとしている。ところがここにきてまさかの問題が持ち上がった。表紙に予定していた作品の画像データが解像度不足と判明。芸術新聞社の今回の担当Yさんの話によると、この作品の撮影された当時のカメラと今のものとではすでに性能に大きな差があるようで、今回表紙に使うにあたってトリミングしなければならないのだが、そうすると画像の鮮明さに難があるとのこと。どうしたもんかと思いながら実際に色校正用のプリントを見せてもらうと、一見ちゃんと撮れていて、そのまま使っても問題ないように見えるが、じっくり見ていると、確かにわずかにぼやけた印象もある。すでに色校正も進んでいる段階。このまま今の画像で良しとしてしまうか、それとも…。社内ほか、何人かの人に見せたところ、その多くは全く気にならない。ということだったようだが、Yさんは「せっかくの画集の表紙、ここで妥協したらあとで悔いが残ると思うんです。」…と、印刷会社と交渉し、もう一度作品を撮り直して今の画像と差し替えることを提案してくれた。完璧を目指そうというこだわりはありがたかった。ところで問題は、作品がすでにコレクターさんのところに収まっていて、それは福島県にあるということ。予算と日程のぎりぎりのところ、ああでもないこうでもないとやり取りがあった末、コレクターさんの了解を得、今日、Yさんと二人で作品を借りに福島まで車を飛ばすことになった。
風は強いが日差しは暖かい。東京は桜も見頃を迎えつつあるが、車が北に向うにつれて花数は少なくなっていく。わずかに福島の春は東京より遅いようだ。
昼には現地につき、作品を受け取った。そのまま東京に引き返す。順調に帰ったものの、都内に入ると急に車が増え、進みが悪くなる。それでも4時には品川にあるスタジオに到着した。
エス・アンド・ティフォトの南さんは私の最初の個展の時からずっと絵の写真を撮ってくれている。多くの作家の作品を撮っているベテラン。知り合いの写実画家のほとんどが撮ってもらっていると言っていいほどだ。私の絵にしてもどんなところを見せたいのかをきちんと理解しながら撮ってくれるので、安心して任せられる。出来上がった作品を撮っているのに、「小尾さん。この下に赤味の色が入ってます?」なんて、下層の色のことまでわかってしまうらしく、こちらが驚かされることもしばしばだ。世の中いろんなところに職人技を持った人っているんだなあ…、と、いろんな所で思わされる。他にもたとえば印刷会社の人。作品のポジを見て、実際の作品を観たことがあるわけでもないのに、一瞬で「ちょっと 赤いですねえ。これは青いかな。」などと指摘するだけではなく、「ああ、この子供の首のあたり、皮膚の剥がれた感じまで描いてるんですねえ。」などと、実物を見ても気付かないような細部を言い当ててしまう。
画廊、出版社、カメラマン、印刷会社、美術館、コレクター、モデル…今回の出版にあたって考えてみるとそれぞれ特殊な力を持ったどれだけ多くの協力者があってできていくのかということをあらためて感じる。まだ出来上がってないが、あらためて協力者の皆さんにお礼申し上げます。