仕事の締め切りの山場を越えたと思ってすっかり気が緩んだと思われたら何なのだが、昨日の午後は娘と妻を連れて公園に行った。正直に言ってしまえば知り合いの展覧会を観に行くという大事な用事があったのだが、大きな公園のすぐ近くだったのでついでに家族サービスも兼ねて一緒に行こうという虫のいい話。長男は友達と遊ぶ方がいいということで今回は不参加となった。
季節はすっかり秋。落葉もちらほらはじまり冬が近いことを感じるが、晴れた日の当たる公園は暖かく、日曜日とあって家族連れも多い。川沿いに作られたこの公園には大きなプールやテニスコートなどのスポーツ施設の他に、ゆったりとした遊歩道やサイクリングコース、遊具のある広場やボートの浮かぶちょっとした池もある。さっそく娘はボートに乗りたいというので乗ることに。足こぎ式のスワンボートやコアラボートもあるのだが、今回は手漕ぎボートに乗ってみることにした。
妻と娘を船尾に乗せ、漕ぎ出したのだが、ただ黙って見てられるような小学1年生なんているはずもない。1分もたたないうちに「漕ぎたい漕ぎたい」と騒ぎ始める。1年生みたいなちっちゃいのじゃ無理だよ。なんて言葉に納得するはずもなく、仕方ないので「じゃあ、隣に座っていっしょに漕ぐか。」というあたりで何とか妥協を得た。
うれしくなった娘は早く漕ぎたいと立ち上がりこちらに来ようとするのだが、ちっちゃなボートはそれだけでぐらぐらと揺れる。妻はもう娘が危なっかしいのと酔っちゃいそうなのとで大騒ぎ。しかし怖いものなしの1年生はそんなの関係ないとばかりぐいぐいこちらの隣にお尻をねじ込み満面の笑みでオールを握りしめた。
いざ、漕ぎ出すが、しょせん1年生と大人、まるで力が違う上に、娘は当然ながら使い方が全然わかっていない。水をかくんじゃなくて水を切っている。バシャバシャ跳ね上げて母親にぶっかけたりしながら。結果、左右の力のバランスが偏り、ボートは一か所でぐるぐる回り出すばかり。妻は、「気持ち悪くなるからやめて」と音を上げる。仕方なく、自分が娘のペースに合わせて漕いだり漕がなかったりしながらなんとかそれらしく進むようになった。
すぐ飽きるかなあと思っていたのだが、以外にも娘は”強情にも”「もうやめる」とは言わない。それならいいや、と思い切って一人で漕がせてみることにした。私は舳、妻は船尾、真ん中で小学1年生の娘がボートを漕ぐ。どうなることかと思ったが意外や意外、ゆっくりではあるがちゃんと漕いでいる。二人で漕ぎながらそれなりにコツをつかんでいたらしい。それほどボートが込み合っていないこともあり、これならハラハラすることなく任せていられそうだ。そうとなればせっかくだからこっちは思う存分リラックスさせていただくとしよう。足を投げ出し頭をボートのへりに乗せて空を眺める。秋のやわらかな日差しが心地よい。いやいや悪くないねえ。こんな休日。先週まで何か月も続いた”締め切り地獄”がまるで嘘のようだ。
ボートを降り、公園の遊具でしばらく娘を遊ばせた後、河原の遊歩道をのんびり歩く。河原一面のススキが夕日に染まり黄金色に輝いている。こんな中から何か作品化できないものかとアンテナを張り巡らしてみたが、ぴったりはま
る何かを見つけることはできなかった。でもこんなちょっとした心動かされるものの蓄積が、案外次の作品につながったりするものだ。今は直接そこにつながらなくてもいつかのためにそんな引き出しをたくさん作っておくことにしよう。
家に帰り、今日は一緒に行かなかった息子にボートに乗った写真を見せると「行っときゃよかった」と悔しがっていた。